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2012.2. 7
■日 時:2012年1月28日(土)14時30分~17時30分
■会 場:東京大学大学院情報学環福武ホール地下2階スタジオ
■登壇者:中橋 雄(D-project副会長/武蔵大学)
砂川 浩慶(メディア総研所長/立教大学)
村田麻里子(関西大学/MELL Platz)
水越 伸(東京大学/MELL Platz)
■司会: 本橋 春紀(日本民間放送連盟/MELL Platz)
■主催: MELL Platz
メディア表現とリテラシーについて、ともに語り合う「広場」として2007年7月に生まれたメルプラッツ。第32回、最後の公開研究会には80名近い参加者が集まりました。
今回の研究会では、メルプラッツの5年間を1つのベースとしながら「メディアリテラシーに取り組む新たな実践共同体を構想する」をテーマとしました。 この問題を考えるにあたっては、関連する実践をあわせてベースとすることが不可欠です。そこで、中橋雄さんにD-projectの活動を、砂川浩慶さんにメディア総合研究所の活動をご紹介いただき、MELL Platzからは村田麻里子さんが5年間の軌跡を振り返りました。
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2011.1.15
今年のメル・エキスポでは、出展者や参加者の出会いと交流を促す「祝祭的」な場づくりを深めるため、メディア・エクスプリモとの協働で構想されたシステム「ネビュラ」を活用した実験的なワークショップ「エキスポ・トレール」が行われました。「ネビュラ(Nebula)」とは「星雲」の意味。人々の関係性を可視化し、アーカイヴ化するシステムです。3月6日午前中の「広場としてのメル、システムとしてのメル」から、7日午前中の「広場のつくり方とシステムの可能性:全体交流会@福武シアター」へとまたがって行われた今回のセッションでは、「ネビュラ」と「エキスポ・トレール」の概要説明に引き続き、「全体交流会」がにぎやかに行われました。
【ネビュラとは】
最初にメルプラッツ・メンバーの水越伸さんから、「ネビュラ」の概要説明が以下のように行われました。
メルプラッツが目指すプラッツ(広場)とは、参加者が主体的に関わり合い、交流し合えるような場、そしてそこから新しい発見や活動へのヒント、連携が生まれるような場です。そのためのあり方、つまり新しい出会いを媒介する「広場」の仕組みを、技術システムと文化プログラムとの関係を通じて構想したものが「ネビュラ」です。
「ネビュラ」には二つの目標があります。一つは「日常的・機能的」な面にかかわるもの。そこでは交流を蓄積し、関係性を一覧できることが求められます。もう一つは「祝祭的・象徴的」な面にかかわるもの。そこでは関係性を俯瞰し、交流を組み替えることが求められます。これら二つの面から、メルプラッツが目指すプラッツを実装しようとしたものが「ネビュラ」です。
【エキスポ・トレールとは】
次にメルプラッツ・メンバーの鳥海希世子さんと林田真心子さん、そして今回のワークショップ・デザインを主導した水島久光さんから、「エキスポ・トレール」の概要説明が以下のように行われました。
トレールとは人と人とのつながりを意味します。その関係性を可視化するために今回はエキスポの開催に先立って、45の質問項目から成る質問状を出展者のみなさんにお送りし、お答えいただきました。質問はそれぞれの活動や組織にかかわるものです。その答えを数値化し、重み付けすることによって、それぞれの出展者を以下の6つの軸上にマッピングすることが可能になります。
・自信がある~悩み深い
・大分経験を積んだ~これからだ
・恵まれている~恵まれていない
・しっかりかっちり~やんわりしなやか
・ノリだよ~結果だよ
・go ahead!~ change!
これらの軸を「ネビュラ」システム上に表示することにより、しかもさまざまな軸を設定することにより、それぞれの出展者がどんな位置にいるかを確認し、他の出展者との距離感を表現することが可能になります。その説明とともに実演が行われました。
【全体交流会】
続いて出展者と参加者全員を巻き込み、「全体交流会」が以下のように行われました。
まず1枚の紙が配られました。そこには上記の6つの軸のうち、「しっかりかっちり~やんわりしなやか」が縦軸に、「ノリだよ~結果だよ」が横軸に設定されている座標が印刷されています。その中の4つの象限のどこに自分が位置するかを出展者と参加者がそれぞれ確認します(出展者は質問状に基づいて確認し、参加者は自己申告します)。その結果、全員が4つのグループに分かれることになります。
次にそのグループごとに全員が分かれて集まり、自己紹介し合います。その結果、自分と同様の経験をしている人たちと交流し、自分の立ち位置を確認するとともに、悩みや意見を他のメンバーと分かち合うことが可能になります。そうした「集団お見合い」が、あるグループではまじめに(特に「しっかりかっちりAND結果だよ」組)、またあるグループでは気ままに(特に「やんわりしなやかANDノリだよ」組)、それぞれのグループの特色を出しながら行われ、そうして出会いと交流の場がにぎやかに実現されました。
「ネビュラ」は今後、市民メディアやさまざまなシンポジウム、地域の集まりなどで活用されることが期待されています。そこには技術システムと文化プログラムとの関係を通じて、出会いと交流を促す「祝祭的」な場づくりを進めていくことの一つの可能性が、ひいてはメルプラッツという活動の可能性そのものが集約されているといえるでしょう。そんなことを感じさせられたセッションでした。
(伊藤昌亮/愛知淑徳大学、メル・プラッツ運営メンバー)
2010.3. 7
MELL EXPO 2010は3日間で約250名ものご参加をいただき、メディア表現やリテラシーに関わる、さまざまな人と人との出会いが生まれました。出展者のみなさま、そして参加者のみなさま、本当にありがとうございました。
■日時 :2010年3月5日(金)〜7日(日)
■会場 :東京大学大学院情報学環福武ホール
地下鉄丸の内線・大江戸線[本郷三丁目駅]から徒歩6分
地下鉄南北線[東大前駅]から徒歩8分
■主催:メル・プラッツ、東京大学大学院情報学環
■協力:メディア・エクスプリモ「情報デザインによる市民芸術創出プラットフォームの構築」
(科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業)
ろっぽんプロジェクト「放送局と市民の協働的メディア・リテラシー活動の体系的構築」
(東京大学&テレビ朝日 共同研究プロジェクト)
■出展者 51組
■参加者 約250名
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2010.3. 6
オルタナティブ・メディア・プラクティス--映像交流授業の試みから

メルエキスポ2010の2日目の午後に開かれた「オルタナティブ・メディア・プラクティス--映像交流授業の試みから」セッションでは、メルプラッツの複数の運営メンバーが地域イメージの脱構築を目指し2003年から取り組んでいるメディア教育実践「ローカルの不思議」プロジェクトの報告と、「フィールド」をテーマにパネルディスカッションを行いました。
【あいさつ】
・北村順生(KITAMURA Yorio:新潟大学)
【「ローカルの不思議」実践報告】
・小川明子(OGAWA Akiko:愛知淑徳大学)
・稲垣忠(INAGAKI Tadashi:東北学院大学)
・坂田邦子(SAKATA Kuniko:東北大学)
・崔銀姫(CHOI Eunheui:佛教大学)
【パネルディスカッション「メディア実践における『フィールド』を考える」】
・飯田卓(IIDA Taku:国立民族博物館)
・山内祐平(YAMAUCHI Yuhei:東京大学)
<司会>境真理子(SAKAI Mariko:桃山学院大学)
最初に北村順生さんから「ローカルの不思議」プロジェクトのこれまでの経緯について話しがあった後、小川明子さんによる実践内容の説明があり、続いて、稲垣忠さんが交流学習としての視点から、坂田邦子さんが文化的実践としての視点から、それぞれ活動の考察を行いました。後半は、崔銀姫さんによる問題提起を受け、文化人類学者の飯田卓さん、学習環境デザインを専門とする山内祐平さんをパネリストに迎え、ディスカッションを行いました。
◇「ローカルの不思議」実践報告
「ローカルの不思議」は、地域のステレオタイプイメージに気付き、それを乗り越えた地域表象のあり方を考える交流型のメディア教育実践プロジェクトです。具体的には異なる地域の大学・高校がパートナーとなり、相手の地域に抱いているイメージを交換し、他者の眼差しを意識した上で、自分達の地域を紹介するクイズ形式の映像を制作します。2003年から7年間に渡り毎年実施され、これまでに大学14校、高校6校が参加、160作品が作り出されてきました。
●プロジェクトの概要
プロジェクトの説明を担当した小川明子さんはまず、ハデ婚と言われる名古屋の結婚式は実は少ないお金で豪華に見せる工夫がされているという内容を紹介する愛知淑徳大学の作品「モリコロNEWS」を見せた上で、目的やカリキュラムについて次のように報告しました。
<小川さんの報告>
プロジェクトを立ち上げた背景には、東京一極集中的なマス・メディア環境において、地域表象はステレオタイプ的に扱われるか、あるいは全く扱われないという問題意識がある。実践の目的は(1)マス・メディアによるステレオタイプ的な地域表象(イメージ)とは異なるオルタナティブな地域像の呈示、(2)水平的な地域間コミュニケーション回路の模索である。教育実践としては(1)地域文化や表象についての学び、(2)メディア・リテラシー的学び、という2種類の学びを埋め込んでおり、カリキュラムは「自己紹介ビデオの制作」→「イメージマップの制作」→「クイズ映像の制作」→「交流」という流れで進む。「イメージマップ」とはパートナー校の地域イメージについて、「時事問題」「自然・地理」「歴史・伝統」「生活・習慣」に関して思い浮かぶ言葉を模造紙に書き込んでいくものであり、それぞれのイメージがどこからもたらされたか「マスメディア」「教科書」「実体験」「インターネット・観光ガイド」について色分けして記入する。学生は送られてきたイメージマップを見て他者の眼差しに気付き、「相手」と「自分」との差異を想定した上で映像制作に取り組む。今後の展開としては、ケーブルテレビでの上映やまちづくりワークショップでのカリキュラムの活用など地域社会との連携や、立ち上げ当初試みていた国と国の異文化理解を扱うグローバルな試みについても再挑戦していきたい。
●交流学習、文化実践 2つの視点からの考察

稲垣忠さんは「出会って比べて再発見! 交流学習による学びを考える」というタイトルで交流学習としての視点から「ローカルの不思議」をふり返りました。
<稲垣さんの報告>
交流学習には(1)お互いを知り、仲良くなることが目的の「交流体験」、(2)お互いの学習を深めるために比較・検討する「実践報告」、(3)調査、栽培など同じ活動をして比較する「共通活動」、(4)1つのモノ・企画等をいっしょに作り上げる「協働制作」といった活動があり、「ローカルの不思議」でもこれら複数の学びの要素が実践されている。様々な大学・高校の授業やゼミで実施されており、専門分野も担当科目も異なる中で進めるため、共通カリキュラムとしての学習目標は、映像表現・作り方をメディア・リテラシーの視点から学ぶこと、地域イメージに関して異なる文脈、背景を持つ相手に伝えること、という最低限に抑えている。「自己紹介ビデオの撮影と交換」「イメージマップによる交流」「作品制作」「上映・交流会」「ふりかえり」という活動の流れと制作物の形式を共通化し、具体的な指導は各教員に委ねられる。学習交流の価値は、明確な相手に伝える、先生のために学ぶのではなく自律的な学びと表現を見つめ直す機会を学生にもたせられることである。作品の質を高めていくための課題としては、生活世界が決して広くはない中で、大学生がテーマをどう選んでいくのか、どこまで掘り下げて調べられるのか、表現技法と内容のバランスをどうとるか、などを考えていくこととがあげられる。

「違う!でもこれって本当の私たち?―オルタナティブな文化表象を考える」という題目で、坂田邦子さんは文化的実践としての分析・考察を次の点から行いました。
<坂田さんの報告>
報告するのは他者のまなざしを意識する過程としての「イメージマップの分析」、自己の文化表象を模索する過程としての「クイズ作品の分析」、自己と他者の関係性を再構築する過程としての「交流会の考察」の3点である。イメージマップについては、これまで2005年度~2009年度の5年間に渡り毎年実践を重ねてきた愛知、群馬、新潟、宮城について作成されたものを対象として分析した。一番書き込まれた言葉は、愛知が名古屋城・しゃちほこ、群馬が温泉、新潟が米関連、宮城は牛タンだった。実践では交流相手のイメージマップを作る他に、自分たちの地域についても作成するが、自分達があげるキーワードの数に比べて、他者が書くとキーワードの種類は圧倒的に少なくなる。また他者のイメージの多くはメディアからもたらされるということがマップから読み取れた。更には群馬のマップでは、イメージがほとんど書き込まれない、そもそも表象されない、という状況があった。イメージマップは「他者のまなざし」を可視化し、自他間のイメージギャップを明らかにする。
制作されたクイズ映像は、TYPE1「ステレオタイプにのっかる」、TYPE2「ステレオタイプをずらす」、TYPE3「オルタナティブを表現する(1)」、TYPE4「オルタナティブを表現する(2)」と分類できる。TYPE1の映像は他者のイメージをそのまま強めたり、深めたり、詳しく説明するものであり、TYPE2はイメージに対して釈明したり、異なる角度や視点を示すものである。TYPE3はプロジェクト上の他者にとってはオルタナティブだけれど自己にとっては既存のイメージを伝えるもので、TYPE4は全く新しいイメージを呈示するものである。最も多く制作された映像はTYPE3だった。TYPE4は自然に生まれず何らかの「介入」があったように思われる。また、単純にオルタナティブイメージを呈示しても新たなステレオタイプを生み出すだけになりかねない。
交流会の役割は、他者に出会い、自己を振り替えることで、他者との関係性を考えるという点にある。プロジェクト全体のまとめとしては、オルタナティブを生み出すために「戦略的介入」が必要であり、また課題として、自己のオルタナティブなイメージを呈示しても他者が受け入れなければステレオタイプは変わらないことがあげられる。
◇問題提起とパネルディスカッション
崔さんは「ジレンマを語り合おう~『フィールド』から考えるオルタナティブ・メディア・プラクティス」と題して、「オルタナティブな文化表象の生産は可能なのか?」「『フィールド』と実践者との立ち位置の多重性」「『実践』と日常との距離感」という3点の問題提起を行いました。

パネリストの飯田卓さんはまず、ジレンマの中から次の実践を考えていけるのではないかとコメントされ、自身の務める国立民族学博物館の展示も、イメージを再呈示する(re-presentation)文化表象であり、類似の問題を抱えていると言うことができると話されました。例えば30年近く続いていたアフリカの展示を更新する際に考えたこととして、オーディエンスが期待してしまうアフリカ像がある中で、既存のアフリカ像を単に再呈示(re-present)するのは問題で、一方オルタナティブイメージばかりを伝えればいいわけでもなく、飯田さん自身は今あるものから少しずつ広げていきたいと話されました。また、「ローカルの不思議」について、単なる表象を扱っているというよりは交流としてのダイナミックな実践の面白さを指摘されました。また「フィールド」についてのコメントとして、フィールドは空間的な知見から定義されがちであるが、その場には時間的な深みがある。人類学の大事な事はフィールドにおける時間の深みを体得することであり、そこからフィールドの多重性や実践の立ち位置の多重性を考えていけるのではないか、と指摘されました。
山内祐平さんは実践の持続と展開において「持続のための評価・展開のための変化」が重要とコメントされました。持続のためには「(学習半ばで行う)形成的評価で改善し、総括的評価で意義を表現する」ことが重要と述べ、展開のための変化についてはリプリケーター(自己複製子)という概念を用いて説明されました。例えば、他者の実践に関心を持って、自分もやってみようとする際に、遺伝子のようなアイディアの核となる情報「ミーム」が化けてしまう可能性もある。展開には変化を許容し、新しい息吹を吹き込むことが肝要であると指摘されました。また、学習において最も困難な課題である転移については、ワークショップに留まらない実践共同体の次元が重要であり、コミュニティの中での持続可能な会話によって、ステレオタイプなり転移なりが担保される、と述べられました。人が変わるのには手間、時間がかかり、その段階は「知識<思考(高次的思考)<態度<行動」と進む。知識は変わりやすいので入り口には良いが、高次の変容には葛藤経験が必要で、実践を文化にするにはさらに積み重ねが必要である、と話されました。
パネリストの発言を受け、ディスカッションでは主にコミュニティビルディングのあり方が議論されました。交流をきっかけに表象の構造を見つめ直し、それが変わりうるものとして試みられている「ローカルの不思議」プロジェクトだが、授業の中だけで閉じてしまい、新しい表象を生み出すというよりは、扱うことに留まってしまう面もある。先輩、後輩のつながりや、例えば、イギリスのプロジェクト学習ではNPO、博物館、中等教育、など他の機関との連携している形もあり、ジレンマの先に新たな枠組みを設定できるのではないか、などの意見が出されました。また、実際に「ローカルの不思議」では大学生がファシリテーターとなる高大連携の取組みも行われ始めており、これはコミュニティビルディングに向けた次の展開ではないか、との発言もありました。
◇
7年間に渡る実践の積み重ねが厚みのある報告、議論を生み出したように感じました。リプリケーターやミームという言葉で一つの実践がいかに文化へ、社会へと浸透していくことができるのかという議論が展開されましたが、それがまさにメルプロジェクトで提案され、メルプラッツが具現化しようとしているメディアビオトープのチャレンジなのだと思います。私自身「ローカルの不思議」の実践には2009年より参加させていただいているのですが、他地域の大学生と対話しつつメディア制作を行うという基本デザイン自体に、通常の授業では困難な教室の外にはみ出した学び、メディア実践のコミュニティビルディングの種を持っていると感じています。また、授業の打ち合わせや報告会などを通じて学習者と異なる位相の担い手である教員同士のコミュニティは、組織や地域を越え、確実に形成されており、報告にもありましたが放送局やミュージアム、NPO、他の教育機関などの広がりのある地域社会との結びつきを実践の諸相において一つひとつ実現していくことが大事なように思いました。
(土屋祐子/広島経済大学、メル・プラッツ運営メンバー)
2010.3. 5
春を予感させるような暖かな日となった3月5日、メルエキスポ2010が開幕しました。平日の夕方にもかかわらず、大勢のギャラリーが詰めかけました。オープニング・セッションは「21世紀メディア論:日本型メディアの乗り超え方」と称し、シネカノン代表の李鳳宇さん、インフォバーンCEOの小林弘人さん、そしてメルプラッツメンバーの水越伸さんがパネリストとして登壇しました。企画にあたっては、日本型ともいえる今のメディア状況――すなわち日刊紙や民放キー局の経営は危機を迎え、一方で、ネットやケータイは有害情報源と批判されたり、産業的にはガラパゴス化していると揶揄されている――をいかにして乗り越えていくかについて考えたいというメルプラッツの眼目がありました。
【李さんのお話】
民事再生中の渦中にこんなところにきてよいのかとも思うが、久々に世の中に出てきた気分。メディアの一環である映画について自分の経験から話したい。
映画は現在大きな変化を迎えつつある。映画が出て、DVDでの二次利用、テレビの放送、そして出版へと広がっていくのが「商品道」だが、映画はまさにその入り口。ところが、日本ではその入り口に現在大きな偏りがみられる。たとえば昨年日本で一番売れた映画はテレビ局が出資した『ルーキーズ』だが、一人勝ちしている。(テレビ)映画の制作、編成、営業が一体となった成功で、放映時間は合計100時間以上になる。電波は公共のものなのに、総務省がこれを平気で許可する状況に少し危機感を覚える。こういうテレビ局のスタイルに、通常のやり方では太刀打ちできるわけはない。
たとえば『パッチギ』はテレビ朝日で5000万円で広告を打った。ヒロインの「朝鮮人になれる?」という台詞を流したかったが、自分がスポンサーであるにもかかわらず、許可が下りなかった。
テレビ局がつくる映画とはどんな映画かといえば、企画書まわしてみんなが反対しないもの。したがって、監督を誰にするかはキャスティングや主題歌を決めたあとの、最後の段階。クリエイティブな側面がどんどんなくなり、当然ながら新しい俳優は発掘されない。その意味では、映画産業はあるけど映画文化はないのではないだろうか(日本で大ヒットした映画は、海外では誰も知らない)。
ところで、映画は新聞というメディアが現在置かれている状況とよく似ている。新聞は、テレビに比して広告収入が低く、販売所を通じて売り、部数を伸ばさなくてはいけない。映画も中間業者の多さ、マージンの多さなどは新聞の仕組みによく似ており、縄張り意識がある映画館を通じて、ある特定の地域・客の維持をしている。さらに、インターネットの影響が大きいという点でも新聞と似ている。もしネットでみても映画が成立すると、映画業界の衰退はますます激しくなる。その意味では、映画はネットでいかに課金するかを考えて行かなくてはいけないだろう。
現在の映画の置かれている状況に関して、今自分が言いたいことを述べた。
【小林さんのお話】
私はもともと書籍の編集者(wiredなどを創刊)で、最近はウェブメディアを立ち上げている。現在は「誰でもメディア時代」。ネットという水平線にこぎ出してしまったら、どのプレイヤーも全く同じ線上に並ぶ。すると、たとえば豆腐屋AとBとで差異化を図るには、情報量の差なのだが、このことに気がついてないのはオールドメディアの人たち。自分たちの敵が、自分たちと同じ構造をもつとは限らない。
私はこのようなミドルメディア(小資本、個人、アグリゲーターを含む)の話をしたい。検索エンジンはメディアを資本力や過去の名声で差別しない。さらに、無人系ウェブメディアなど、人間がやっていないアグリゲーターもある。編者のいないCGM系メディアでは、メディア側でいちいちコンテンツを組成せず、ユーザーがしたり、自動的にコンピュータが集めてくる場合もある。
こういうことを本で書くと、先進的すぎるなどといわれるが、そんなことはなく、既にもうはじまっている(たとえば、パンドラというインターネットラジオ局では、自分のよく聴く曲を分析し「あなたこういうのが好きでしょう」と推薦してくる)。
さらに、メディアの空間拡張によって期待される役割にも変化が起きている。従来のメディアでは、コミュニティは外にできる。しかし、ネット上のメディアはコミュニティを抱え込むことができる。コミュニティは完全にメディア内に内在する。その意味で言えば、メディアの資本とは、形状ではなく、コミュニティである。そして、コンテンツはコピーできるが、コミュニティはコピーできない。価値はそのメディアに集うコミュニティにあり、メディア・ビジネス専業者は、それを換金化する。あるいは換金化しないで、共益化させることもできる。それが「オープンソース出版」である。
そこで、最後にオープン出版宣言(バージョン1.2)をして終わりたい。
1)出版は出版社だけに行うものではない。出版とはパブリッシング
2)出版は本を印刷し、書店に並べることのみを指さない
3)新しい出版流通のプロトコル(手順)は多様である
4)新しい出版の換金化手段は多様である。オールドメディアは単純な課金制度しかない
5)新しい情報には、アクセスできる情報とそれ以外がある
6)新しい出版には、課金型か無料かの2種類ある。両方兼ね備える場合もある
7)新しい出版人は公益も考え、責務と良心をオールドメディアから継承すべき
【水越さんのお話】
今回は、ここ20年間メディアの前線にいて、活躍しているお二人を呼んだ。しかもかたや映画で、かたやウェブ。僕の専門はメディア論だが、96年に放送大学のテキスト『メディア論』ではメディア論として5点のポイントを挙げた。メディアに関わっている人は、現在それをみたら当たり前のことだというかもしれないが、その割には業界で小さな縄張り争いをしているだけのようにみえる。もっとメディアの在り方に主体的に関わっていく責任があり、コミュニケーションの「媒(なかだち)」についてきちんと考える義務がある。歴史を歴史だけで語る研究者や、業界の話だけをする業界人ではだめだ。
あれから10年経って日本を見渡すと、覚醒した個人が各地で沢山生まれており、そのネットワークもかなりできた。広場やコミュニティも出来た。
では、主流マスメディアはどうか。現体制の構造体はトランジット(遷移)しうるのか。それとも新しいメディアが取ってかわるのか。どのような新しいメディア環境がありうるのか。
ひとつには日本的なメディア環境の困難というのがあるのではないだろうか。たとえば新聞を例に取ると、海外では20~30万部で大きなメディアを意味するが、日本ではそれは地方規模で、大きいものは1000万部にも。一方で、1億2000万人という日本の中で、閉じている日本のウェブ社会がある。これだけ「肥大化」ばかりしたものを小さくするのは難しい。
そこで、21世紀メディア論のポイントはなんであろうか。
・日常生活実践をこまやかにみつめ、対象化する。
・技術中心主義にならず、技術と関わり続ける。
・グローカルに(グローバルにではなく)拡大する格差に絶えず目をこらす。
・分析的・批判的でありつつ、実践的、能動的でいる。
仮にテレビ局が目先だけ儲けても、それはめぐりめぐって日本のためにならない。日本の中に閉じこもっているということをそもそもやめなくてはならない。メディアの歴史をみつめ、その未来をデザインしていこう。
*****
このあと、水越さんおよびフロアから、小林さんと李さんに対して質疑応答を行いました。
マスメディアは果たして今後トランジットしうるのか、という質問に対して、小林さんは、メインフレームはパソコンにはなりえないと喩えて、トランジットは無理とバッサリ。そしてリストラされてきたマスメディア人が、ミドルメディアに流れてくると示唆しました。一方李さんは、変わりうるし、変わらなくてはいけないとして、法整備の必要性や、ネットやテレビには置き換えられない映画体験の重要性などを指摘しました。
一方で、いかにしたら「誰でもメディア」をパブリックな形で育てうるかという質問に対し、「公共性」や「育成・教育」の必要性を両者共に指摘しました。小林さんは、今の新聞等のメディアは果たしてパブリックなのか、公共性とか共益性が欠如していないかと述べ、さらに、自分はメディアをつくって・たたかれて・苦労して・禿げて・ようやく「メディア野郎」になれたと、公共性を意識する人たちを育成する必要性を語りました。李さんは、映画監督や俳優を育てる機関の少なさを指摘し、映画は人が作っているので、人をいかに育てていくかという議論をしないでメディアのことばかり考えていても進まないと危機意識を語りました。
今回のエキスポを貫くテーマとも言える、メディアとコミュニティというキーワードが、結果としてこの大胆なセッションから浮かび上がったといえます。同時に、セッションを通じて、異なるメディアの最前線にいる二人の距離――すなわち映画という「オールドメディア」(by李さん)と、それを看破する小林さんの言語や発想の距離――がハイライトされたように感じました(本人たちも冗談めいてそのように指摘)。つまり、このセッション自体が、現在のメディア状況の一端を移しだすという、興味深い現象がみられたのです。また、3人のメディア人による情熱と「アジテーション」から、21世紀メディア論の課題と同時に小さな希望の光も見出せるような幕開けとなりました。(報告者:村田麻里子/メル・プラッツ運営メンバー)
2009.4.30
2日間で約250人ものご参加をいただき、メディア表現やリテラシーにかかわる、さまざまな人と人との出会いが生まれました。出展や参加された方、本当にありがとうございました。
■日時 :2009年3月20日(祝)〜21日(土)
■会場 :東京大学大学院情報学環福武ホール
地下鉄丸の内線・大江戸線[本郷三丁目駅]から徒歩6分
地下鉄南北線[東大前駅]から徒歩8分
http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/map01_02_j.html
■主催:メル・プラッツ
■協賛:東京大学大学院情報学環
■協力:
「情報デザインによる市民芸術創出プラットフォームの構築」(科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業)
「テレコミュニケーションの文化とリテラシーに関する質的、デザイン論的研究」(東京大学・KDDI研究所共同研究)
■出展者 46組
■参加者 約250人
○EXPO第1日目(2009年3月20日)の報告は【こちら】
○EXPO第2日目(2009年3月21日)の報告は【こちら】
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2009.4.30
メディア・リテラシーに関心をもつ人、メディア・リテラシーをめぐる実践にたずさわる人たちが情報の交換や交流をおこなうための場として2008年から始まったMELL EXPO。今年も3月20日と21日の2日間、東京大学福武ホールを舞台に、約250名の参加者を得て賑やかに開催されました。その第1日目の模様は・・・・・・。
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2009.4.30

午前中のメインステージでは、「禁止された遊び」というディスカッション。近ごろ規制論議が急速に高まっているケータイについて、これまでのメディアにみられた「いかがわしさ」と「規制」のダイナミズムなどを引き合いに、そのメディアとしての課題と可能性を考えました。なおこのディスカッションは、メル・プラッツと、KDDI研究所と水越研究室の共同研究「テレコミュニケーションの文化とリテラシーに関する質的、デザイン論的研究」の共催で進められました。
まず、岡田朋之さん(関西大学)が、伝言ダイヤル以来の豊富なフィールドワーク経験を参照しつつ、子どもと大人の認識のギャップに言及。そしてケータイ規制論議の現状は、一方では、60年代の混線遊びや80年代なかば以降のテレクラなど、メディアに媒介された「出会い」の系譜を辿ることで、そして他方では、「風俗営業取締り」などに遡る有害メディア規制の源流に目を向けることで、歴史社会的に位置付けられることを指摘しました。遊びの空間が無くなっている今、逸脱しながら学ぶという営みがもっとあるべきで、そういう場を用意することに知恵をしぼることが重要である、といいます。
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2008.4.26
■日 時:2008年4月26日(土)〜27日(日)
■場 所:東京大学大学院情報学環福武ホール
■出展者:約60組
■参加者:のべ約450名
■タイムテーブル:
【4月26日(土)】
12:00 受付開始/パビリオン展示開始
13:00 メル・プラッツからごあいさつ
北村順生(新潟大学)、水島久光(東海大学)
13:30 プレゼンテーション(1)
"Digital Storytelling in Wales"
ギャレス・モーレス
(イギリス、BBC『キャプチャー・ウェールズ』プロジェクト)
通訳:村田麻里子(関西大学)
コメント:小川明子(愛知淑徳大学)
14:30 プレゼンテーション(2)
"Media Education-Reflection of Thai Broadcasting"
ナナタン・ウォンバンデュ
(タイ、チュラロンコン大学)
通訳:ペク・ソンス(神田外語大学)
コメント:水島久光
15:45〜17:45
5つのパビリオンで展示、トークセッション
- 16:00〜16:45
"グラスルーツ・コミュニケーションの方法"
佐倉統(東京大学)
聞き手:鳥海希世子
- 17:00〜17:45
"ネット時代のメディア・リテラシー"
北田暁大(東京大学)
聞き手:伊藤昌亮
18:00 懇親会(地下二階ホワイエにて)※参加費別途
【4月27日(日)】
9:30 受付開始
10:00 5つのパビリオンで展示、トークセッション
- 10:00〜11:30
"「媒体素養(メディア・リテラシー)」(大学扁)は何を教えるか?
どのように教えるか?"
呉翠珍(ソフィア・ウー)、
鄧宗聖、李律鋒、頼慧玲、蔡欣怡(台湾政治大学)のグループ、
聞き手:劉雪雁
- 11:45〜12:30
"「マスがコミュニケーションする時代」のマス・メディアと市民の回路"
桂敬一(日本ジャーナリスト会議)
聞き手:砂川浩慶
13:30 パネルディスカッション
パネリスト:ギャレス・モーレス、ナナタン・ウォンバンデュ、呉翠珍
コーディネーター:水越伸(東京大学)
通訳:村田麻里子、鳥海希世子(東京大学)
15:00 総括ミーティング --EXPOを振り返って
北村順生ほか 2008メル・プラッツ事務局★
16:00 終了
■概 要:
→【プレゼンテーション、パネルディスカッション、総括ミーティング】の概要報告
→【トークセッション】の概要報告
→【パビリオン】の概要報告
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2008.4.26
【プレゼンテーション、パネルディスカッション、総括ミーティング】
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