activities

公開研究会の報告

メル・エキスポの報告

[home] > [activities] > [第16回公開研究会報告
「デジタルメディアと遊び:放送、そしてミュージアム」 ]

2009.10.24

第16回公開研究会報告
「デジタルメディアと遊び:放送、そしてミュージアム」

091024_00.jpg


■日 時:2009年10月24日(土)14時半〜18時
■会 場:東京大学本郷キャンパス
      工学部新2号館9階93B情報学環スペース
      http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_04_18_j.html
      ※地下鉄丸の内線・大江戸線[本郷三丁目駅]から徒歩8分
       地下鉄南北線[東大前駅]から徒歩8分
■参加者:約45名
■テーマ:「デジタルメディアと遊び:放送、そしてミュージアム」

■プログラム
【14:30-14:45】
 ○挨拶と企画説明:
    メルプラッツ事務局+加島卓(東京大学、司会)
【14:50-15:40】
 ○報告:中谷日出(NHK解説委員)「放送とメディア遊び」
【15:45-16:35】
 ○報告:高宮由美子(子ども文化コミュニティ)「ミュージアムとメディア遊び」
【16:35-16:50】
  休憩
【16:50-17:10】
 ○コメント:村田麻里子(関西大学)
【17:10-17:50】
 ○ディスカッション

■概 要:

 今年度は積極的に関係団体との共催を続けてきたメル・プラッツ。第16回目の公開研究会は久々の単独開催...ということで「現在のメディア状況と私たちはいかに向き合うべきか」というベーシックなテーマが設定されました。
 デジタル化の進展の中で、社会や学校教育は「リスク」に対する保護主義的な姿勢を強めています。声高に唱えられるモラルやアクセス制限、教室へのケータイ持ち込み禁止。メディア・リテラシーという言葉が、そういった文脈の中に回収されてしまう動きがあることも気になります。
 しかし人間の自由な表現の広がりを支えるべきメディアが、このような固い殻の中に封じこめられてしまう状況は、決して本来の姿とはいえません。もっと「やわらかく」「しなやかに」メディアとの関係性を築いていくことはできないのでしょうか。そこで注目したのが、「遊び」という言葉でした。
 


 今回報告をしてくださった中谷日出さん(NHK解説委員)と高宮由美子さん(子ども文化コミュニティ/メルプラッツ運営メンバー)はテレビとミュージアムという違いこそあれ、公共空間の中で「メディア遊び」というべき実践を、さまざまな制約を乗り越えて続けてきた第一人者。そのメッセージの中には、デジタル化と表現活動の関係、新しいメディアとの向き合い方を考えるヒントが散りばめられていました。

091024_01.jpg 中谷さんは『体験!メディアのABC』や『デジタル・スタジアム』の司会者として有名ですが、ご自身もクリエイターとしてメディアの進化と向き合ってこられました。その過程で得た結論は、端的にこの二つ――第一に、「テクノロジーは進化するのだ」という事実を受け止めること。そして第二に――だからこそ、ものを作るときは、その進化を想像する主体性(パーソナル・アイデンティティ)、それを支える個人の経験が大事になる、といいます。
 例えば、テレビは今(NHKの技研の研究動向を見ると)視覚だけでなく、「吸う」「噛む」「嗅ぐ」「触る」「食べる」「歩く」といった「感覚を表現するメディア」としても発展しています。実際に『デジスタ』に寄せられる若い人たちの作品を見ていくと、そうした進化するメディア環境の中で感性が育っているのが実感できます。中谷さんのお話をうかがっていると、環境の変化をポジティブに自分のものにしていく力は、まさに「遊び」の中で育っていくのだと思えてきます。その一方で、中谷さんがこの日配布した資料は究極のアナログな、手書きによる情報ネットワーク(マップ)。中谷さんのクリエイティビティが、極めてハイブリッドな感覚に支えられていることが印象的でした。


091024_02.jpg 高宮さんは『おいでよ!絵本ミュージアム』と題して、福岡アジア美術館で「子ども」がその場で「遊べる」展示イベントを三年間続けてこられました。絵本を飛び出したような空間で、アジア美術館の入場者記録をつくったこの企画は、二年目には全国巡回型のコンテンツと、三年目は「いのちや自然」といったテーマを超えたミュージアム間連携にチャレンジし、着実に発展してきました。しかしその陰では、 NPOが美術館の企画運営に参加していくことの難しさに直面してきたといいます。
 特に力を入れてきたのが、親子で体験するデジタルメディアを用いたワークショップ。ワークショップ・メドレー「未来の言葉の起源;かたち>うごき>ものがたり」(2007)、カンブリアン・パーティー「地球のいのちのものがたり」(2009)などを通じて、デジタルメディアに向かう、親子の現状が浮かび上がってきたそうです。子どもたちはなぜデジタルメディアで遊ぶのか――そこには「遊び」こそが内包する「学ぶ」ことの本質、"できたら、うれしい!"主体性が育まれる出発点があるのです。
 高宮さんは、こうした活動が、ミュージアムの可能性を拓くものであることを実感しつつも、その限界も感じ続けてきました。参加できる人数の少なさ。そのためか主催者側の気持ちが「サービス化」された遊びに流れてしまう現実。三年間の実績は、多くの課題も残したといいます。
 

091024_03.jpg お二人の報告の後、コメンテーターとして、関西大学の村田麻里子さん(メル・プラッツ運営メンバー)は、「マスメディアを前提としたパースペクティブでは、メディア・リテラシーを考えることが難しくなった」ことを指摘。放送とミュージアムの共通点でもある、「送り手と受け手の存在」「公共性という枠組み」から、どのように「デジタルメディアで遊ぶこと」の意義を位置づけるべきかという問題が提起されました。
 中谷さんは、デジタルの「マテリアル感」から、体験を生み出すことの価値、高宮さんは、ミュージアムが教育だけでなく、医療福祉やまちづくりといった「ほんもの」の社会に開かれている点に注目しているとのこと。奇しくもお二方とも、遊びながら得られる主体性が、新たな参加を生み出し、活動自体が再帰的に維持される、その循環性を重要視されていることが印象的でした。
 議論はその後、そうはいってもなかなか既存組織や放送・ミュージアムといった概念そのものがなかなか変化しにくいこと、本来自然な環境ではぐくまれるべき感性を、メディア環境は阻害していないかなど、難しい本質的な質問が相次ぎ盛り上がりましたが、残念ながら今回は会場が午後5時に停電するためここでタイムアップ。薄闇に包まれた工学部2号館9階から、懐中電灯をたよりに出口を探すエンディング・・・は、これもまた「遊び感覚」が喚起されたセッションの締めくくりならではの、不思議な経験でした。

報告者;水島久光(東海大学/メル・プラッツ運営メンバー)


<<前の記事を見る | 一覧へ戻る | 次の記事を見る>>

アーカイブ

このページのトップへ